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ロックの正体(第3段)

作成年月日
2007年03月29日 02:25

機能和声から逸脱したブルースのコード進行に面食らったが、とりあえず弾いてみなければ話になるまいと思って前述の「ルーツへ帰ろう!!:Blues編【1】」のコード進行を弾いてみた。簡単な抑え方で和声部の進行がスムーズなE長調に移調しているので、I7=E7、IV7=A7、V7=B7である。深夜に家族を起こさないようにビクビクしながら弾いているので普段にも増して下手だが雰囲気が伝われば幸いだ。

ブルース進行:コード部分(mp3ファイル)

E7A7E7E7
A7A7E7E7
B7A7E7B7

何となくブルージーな感じが伝わるだろうか。ちなみに機能和声に従ったコードで弾きなおすとこんな感じである。

メジャー進行:コード部分(mp3ファイル)

EAmaj7EE
Amaj7Amaj7EE
B7Amaj7EB7

このE長調のダイアトニックコードによるコード進行に、E長調のスケール(俗に言う「ドレミファソラシド」この場合は「ミ・ファ#・ソ#・ラ・シ・ド#・レ#・ミ」)を適当に乗せて弾くとこうなる。

メジャー進行:コード+メジャーソロ(mp3ファイル)

これは勿論ブルースでもなんでもなくて、普通にT、W、X度のコードを使った至極真っ当なE長調の曲である。では、最初に弾いたブルース進行。アレに今弾いたE長調のソロを乗せるとどうなるだろう。

ブルース進行:コード+メジャーソロ(mp3ファイル)

これはブルースでは無い気がする。そもそもこのコード進行をE長調だと考えるとE7に含まれる「レ」、A7に含まれる「ソ」がそれぞれE長調のスケールである「レ#・ソ#」と半音でぶつかっている。その辺をどう解釈すればいいのか非常に悩んだ。おかしいじゃないか。

さて、この疑問は一度脇に置いて、同時期にもう一つ俺の頭を悩ませていた物があった。ペンタトニックスケールである。ペンタトニックスケールとはギターでアドリブを弾こうと思ったらまず最初に出くわすスケールで、本来「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」の7音で構成されているスケール(音階)の中から「ファ」と「シ」を抜いて弾くといいよ、と教えてくれる物だ。C長調の曲で途中にギターソロを入れたくなったら「ド・レ・ミ・ソ・ラ」だけで弾いてみなさい、という意味である。この音階は日本の演歌でもお馴染みなので聞けば「ああ……」と思って貰えるだろう。W(ファ)とZ(シ)の音は隣の音と半音程を作り出すのでソフトな旋律には欠かせないが、この2音を抜いて旋律を作ると良く言えばストレート、悪く言えばバキバキしたメロディが出来るのである。

そしてもし曲が短調だったら、ペンタトニックスケールは「ド・レ・ミ♭・ファ・ソ・ラ♭・シ♭」から「レ」と「ラ♭」を抜いた「ド・ミ♭・ファ・ソ・シ♭」にしなさい、と言うのである。どちらもその調の音階から任意の音を間引くので別に問題は無い。C長調とC短調でそれぞれ使わない音を灰色で表示すると

C長調ファ
C短調ミ♭ファラ♭シ♭

となる。くどいようだがこれは何の問題も無い。それぞれの調の構成音から更に音を減らしているのでコード部分が転調でもしていない限り”間違った音”など鳴りようも無いのである。長調のペンタトニックスケールをメジャーペンタトニックスケール(略してメジャーペンタ)、短調のペンタトニックスケールをマイナーペンタトニックスケール(略してマイナーペンタ)と呼ぶそうな。C長調の曲にはCメジャーペンタ。C短調の曲にはCマイナーペンタを使えばいいわけである。

ところがここでも俺の常識を覆す事が発生する。そのペンタトニックスケールの解説ページでは「C長調の曲でCマイナーペンタを使える」と書いてあるのである。無茶言うな

どうしてC長調の曲に同主短調であるC短調の音階から2音引いただけのCマイナーペンタが使えるというのだ。しかもC長調とC短調を分ける音(C短調の「ミ♭・ラ♭・シ♭」)の内2音(ミ♭とシ♭)がCマイナーペンタにはきっちりと残っているのである。そんな馬鹿な話があるか。そう思いながらもとりあえず弾いてみた。

「あ……ロックだ」

何という事だろう。長調の曲に短調のメロディを乗せたらロックが出来たのである。それは余りに出鱈目過ぎる瞬間だった。ロックの起源というのはもしかしてギターを覚えたての小僧がC長調の曲を演奏している時に間違ってC短調のスケールで弾いちゃったとか、そういう類のものなのかと悩んだのだが、この現象と先の「属7の和音だけのブルース進行」がある一点でかっちりと噛み合い、双方同時に解決する事になった。その一点というのは「ブルーノートスケール」と呼ばれる物の事である。

続く