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星を継ぐ者(総括と今後)

作成年月日
2005年11月07日 02:50

そういう訳で、劇場版三部作の第一弾となるこの「星を継ぐ者」はテレビ版のフィルムをベースに使いつつ、編集の妙とセリフの変更、新規カットの効果的な挿入によりまったく肌触りの違う作品として生まれ変わった。以下、セクション別の評価を、作品にまつわる周辺事情と共に記し、最後に第二部以降についての若干の不安を添えて、このレビューを締めくくりたいと思う。

作画

新規カットの作画監督は

キャラクター作画監督
恩田尚之
メカニカル作画監督
仲 盛文

となっている。メカニカルの方は問題なし。アムロを受け止めるMk-2の掌のディテールなど、これをCGじゃなく手描きで描けるのか、と驚かされた。キャラクターの方も個人的には問題ないのだが、どうも監督はお気に召さないらしく、作画監督のモチベーションを下げるようなやりとりが行われたらしい。(参照:うぱーのお茶会)めげずに最後まで頑張って欲しい。

音楽

音楽
三枝成彰

3部作全体で15曲ほどの新曲が提供されたらしいが、この第一部で聞けるのはおそらく6〜8曲くらいだろうか。あまり前の曲と違わないように心がけたそうだが、俺の耳には雲泥の差があるように聞こえた。是非新曲だけを纏めて(15曲では厳しいかもしれないが……)CDを出して欲しいと思う。

音響

音響監督
藤野貞義

ある意味今一番有名なスタッフである。第二部に出てくるフォウ=ムラサメの声優交代について不透明な噂が跋扈しており、その渦中にいるとされている人物であるが(参照:劇場版Zガンダムのフォウ役を島津冴子さんに戻せ)このフィルムに関わった仕事ぶりに関しては、相当に評価できる。

ファーストガンダムの劇場版がDVDになった時に、音声、効果音の全てが録り直されたが、その結果我々の耳に残る「あの」ビーム音等も全く別の音になってしまった。勿論それは監督の意向だったと思うし、音が変わっても前より良くなっていれば別に構わないのだが、実際耳にした音はなんともチープで、心の中で美化されたサウンドにまるで太刀打ち出来ない代物だった。

それに対してこの「星を継ぐ者」の効果音は紛れもなく「ガンダム」の音でありつつ、当時よりさらに迫力とディテールを持たせる事に成功している。環境音も贅沢に使いつつ細かくコントロールしているので、モニターを切って音だけ聴いていても楽しめる程である。

声優

シャア・アズナブル
池田秀一
アムロ・レイ
古谷 徹
ブライト・ノア
鈴置洋孝
ジェリド・メサ
井上和彦

この辺りの大御所は20年という歳月にも負けずいい仕事をしている。特に古谷徹の完成度は凄まじく、どんなセリフでも「一番いい声で」言えるというスキルには舌を巻く。

カミーユ・ビダン
飛田展男
エマ・シーン
岡本麻弥
レコア・ロンド
勝生真沙子

この辺もテレビ版同様の演技が安心して聴けるレベルである。問題は

パプテマス・シロッコ
島田 敏

である。声優の衰えはまず滑舌に現れる。はっきり言ってお金を取れるレベルではない。2部以降で復調してくれる事を祈る。

変更された所では

ファ・ユイリィ
新井里美
ハヤト・コバヤシ
檜山修之
ロザミア・バタム
浅川悠

の3人が目を引くが、どのキャストもテレビ版よりしっくり来る。ファ・ユイリィが新井里美と聞いた時に「なるほど」と思ったが、実際にこのキャスト変更のおかげでファのパーソナリティがグッと身近に感じられた。最近クール系を一手に引き受けている淺川悠もロザミアに合っていたが、楽しみなのは「ロザミィ」になった時である。テレビ版でも「あイタタタタ」という感じだったが、淺川悠の「お兄ちゃん」は果たしてどんな感じだろうか。

あと、これは何とかして欲しかったのだが様々な所のチョイ役を田中一成がこなしているのだが、特徴のある声なのにその出現頻度が高い為「あ、またハチマキ(「プラネテス」主人公)だ」と思ってしまった。人数を増やすなり、声色を多く持つ人を使うなりして欲しかった。

第二部以降の不安材料

再三取り上げた例のシーンで大人の復権を果たした皆様だが、それを最後まで維持できるかどうか怪しいキャラクターもいる。エマはおそらく問題ない。彼女の最後がテレビ版と同じになったとしても、カミーユを遠ざけていないこの劇場版の方がより一層感動的に繋がるだろう。

問題はレコアとシャアである。中盤から終盤にかけてのレコアの行動は、とてもカミーユが納得できるものではなく、そこで「子供にはわからないのよ」と一蹴されてしまっては、この第一部は何だったんだという事になりかねない。

シャアの方はと言うと、結局レコアもハマーンも痴情のもつれで敵に回しているようなもので、それがフィーチャーされてしまうとせっかく守り抜いた威厳もあっという間に地に落ちてしまう。相手の生死はともかく、女性関係はきっちり清算してから終わって戴きたい。(しかし結局「逆襲のシャア」があるのでこいつのメンタリティは死ぬまで治らなかったという結論は揺るがないのだが……)

あと、ベルトーチカという女がテレビ版でアムロの栄光に泥を塗りまくっていたが、出てくるなら出てくるでいいからもうちょっと物を考えて喋る様になっていて欲しい。

全体に共通して言えるのは「あんまりみっともない恋愛を見せてくれるなよ」という事である。テレビ版のままだったら第二部のタイトルは「恋人たち」ではなく「愛人たち」である。

(了)