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TOEICに行って来たよ或いはやっぱり英語なんて分かんねぇなという話

作成年月日
2019年11月16日 08:54

はい、という訳で、取って来ましたTOEIC900点。わふー。

「間違った英語の話をしよう」と言いつついつの間にかそんな話は(ついでにサイトの更新自体)全くしなくなったのだけど、それは別に英語に興味がなくなったわけでは無くて「色々考えるフェイズ」が終わって後はもう手当たり次第に必要だと思ったことをやっていたのです、はい。

事の発端は9月の末くらい。だらだら英語の勉強して来たけど何かこう、何某かの物が身に付いてるのか確かめたい、身に付いてるのならそれを示す分かりやすい指標が欲しいなと思って師匠に相談したら「TOEICで860点取ればいいでしょう」と言われてそそくさと申し込んだのだけど、これはそこから2カ月間の間に苦労した事の覚書である。多分「TOEIC攻略法」みたいな話にはならないので(実際何も攻略出来てない)そういうのを検索してここに辿り着いてしまった人が居たら申し訳ない。

謎文化の襲来

とりあえずまずは公式問題集だろうという事で一冊買って来てやったものの、とにかくリーディングがつらい。時間全然足りずに最後の20問は問題読まずに適当に塗る他なかった。何がつらいってそこで描かれる話が自分の人生と無縁過ぎて意味が分からない。いや、問題文を完璧に読めれば支障はないのだろうけど、ちょっとあやふやな部分がある場合、そこで頼りになるのはこの場合「社会常識」なので。そんな物の持ち合わせは、ない。

曰く、「飛行機のエンジンを買ってくれてありがとう。荷物は無事フランスを出てじきにそっちに届くよ。ついたらウチのエンジニアがそっちに行って2〜3カ月滞在するので分からない事があったら相談してね」みたいな話が書いてある。

なに、それ。

飛行機のエンジンを売ってる会社、というのがまず縁が無いし、わざわざ中国までエンジニアが手伝いに来てくれる、という世界観が分からない。生まれてこの方会社に就職をしたことがないナチュラルボーン個人事業主なので、そんなサービスがあるという事が問題文を読んだ時点では想像もつかない。

役員会とか、マネージャーとか、会社内の役職や仕事の概要、そう言った諸々の初期設定が入ってないとこれ今何で揉めてんだという事が理解できない。「TOEICはビジネス英語なので」と一蹴されてしまったのもいい思い出だけど、真っ当な社会経験の有無が読解の質を左右する。かと言って今からどこかの会社に就職する訳にも行かないので、そこら辺で分からない事は逐一師匠に訊きました。LINEで。こんな事になるなら予め島耕作を読んでおくべきだった。

謎熟語の襲来

例えば Sales Associate という字面があって、sales は分かるよ、associateも(動詞の意味は)知ってる。で、sales associateって、何。答えは「店員」。はふーん、一事が万事この調子。単語集や文法書の例文は勉強の焦点をはっきりさせる為の配慮が行き届いていたのだなぁ、と思わされる。現実世界は前置詞も介さず多義語と多義語を並べただけの熟語で溢れていて、初見では何を指しているのか絞り切れない。management opening, マネジメントもオープニングもほぼ日本語になってるけどこれ何を言ってんの。そういう。

とりあえずその手の傍若無人な熟語に慣れるべく米国の求人サイトを教えて貰って、そこのページで目にした意味が分からない熟語を英辞郎(熟語に強い)で確認するという作業を行った。一応TOEIC関連の参考書でもそういう物を網羅したものはあると思うのだけど、やはり生の文章は圧が強い。本屋の店員募集でどうしてそこまで要求高いのか、とか、会社の理念とかはいいから早く待遇の話を書けとか、色々ツッコみつつもぼんやりと「現場の空気」みたいな物を感得出来たのは良かったと思う。

棒声優の襲来

英語の参考書、特に単語集や例文集においてはネイティブ話者による音声がCDなりダウンロードなりで付くのが当たり前になっているけれど、今まで耳にして来たそれらは、話し方の好き嫌いはあれどほとんどが高品質な物だった。この界隈はアニメの声優業界以上に寡占化が進んでおり、20冊30冊聞いても片手で数えられるくらいの面子しか出て来ないのだけど、TOEIC公式問題集やTOEIC参考書は英語話者の多様性に配慮してか様々な国のナレーターを採用していて、この中に看過できないレベルの棒声優のオーストラリア人が紛れ込んでいたのがつらかった。聞き取れない、という事も大きいのだけど、言語情報以外の部分、「声の調子」がコミュニケーションを成立させる割合は思いのほか高いのだなと痛感した。演技が棒だと、本当に何を言ってるのか分からないのだ。

そのオーストラリアのナレーターが試験本番で出てきたら終わるな、と覚悟していたのだけど、幸い当日のリスニングには出て来なかった。演技によるヒントを排し、英語の理解力だけを試して来る声優と言えなくもないのだけど、ほんと勘弁してください。オーストラリアにだってちゃんとした声優いるはずでしょう。

読解速度の壁

ちょっと話が愚痴の方に流れてしまったので仕切り直し。結局試験前日まで、そして当日もリーディングパートを時間内に終わらせることは出来なかった。読解時のフローを内省し、「英文を黙読する時に頭の中で英語を発音しているこれが速く読めない原因のひとつであるなぁ」という発見もあったが、しかしそれも些細な事である。TOEICの問題文は確かに多いけれど、そういう「読む速さ」を要求するほどの量では無いと今は分かる。一読して誤解なく全ての文を理解できるなら十分間に合う量なのだ。副詞句のあやふやな記憶、知らない単語、接続詞が繋いでる筈のもう片方を確定できない箇所、そういった部分全てをクリアに出来れば、読む速さは必要はない。真っすぐ読んで、真っすぐ答えて、真っすぐ帰ってくる。これが目指すべき場所だと心に決めて、結局試験当日に至っても辿り着けなかったのだけど。

時間との戦いを強いられて初めて、自分の理解があやふやな個所がまだまだ山積みになっている事実を知る事が出来た。読むのが遅いんじゃなくて、単に分からない事がいっぱいあるだけなのだな。なので、狙った点数ピッタリ取れてホッとしたけど(860点という話はいつの間にか900点に吊り上げられていた)実はまだ頭の中でTOEICは続いている。何の話をしてるのかまるで見当のつかないリスニング問題や、選択肢を2つまでしか絞れずに勘でマークした問題もある。何より最後の5問は結局また塗り絵だったのだ。許されん。

最終的にはやっぱり公式問題集

いくつか試験用に本を買ったりはしたのだけれど、いよいよ試験目前となった時に力を入れたのはやはり(各所で言われているように)公式問題集だった。買った時はこれ模試2回分しか出来ないのか、1回やった問題はもう答え覚えちゃってるしコスパ悪くないかと あまり気に入ってはいなかったのだが、この本のいい所は問題ではなく解説の方である。コスパは読む側だけではなく作る側にとっても重要な筈で、いくら公式が作ってるからと言って最新の模試とまるっきり同じ問題を本番に出してきては試験の信用度が落ちるし、かと言ってまるっきり役に立たない本を出してもそれはそれで商売に響く。どこかにちゃんとした落としどころがある筈だよなと考えて、辿り着いた答えは「模試の、不正解の選択肢」であった。

TOEICの試験は全て3択か4択のマークシートであり、公式問題集も勿論それに準じてある。言ってしまえばこの3千円ちょっとする本の中で、正しい答えは約1/4なのだ。じゃあ残り3/4はゴミなのだろうかと。もし自分がこの本の編集者だったとして、不正解の部分をわざわざ役に立たない英文をこさえてまで作るかなと考えた時、多分そんな事はしないよなと思った。だってリスニング問題ならわざわざプロのナレーターに収録させるのだ。例え「この問題では不正解」だとしても、いつか違う機会に「正解の選択肢として使える英文」を収録しておきたいと思うのは、そんなに不思議な事ではないだろう?と。

それを示唆するように、公式問題集の解説は不正解の選択肢の文章に対しても、必要であれば単語や熟語の意味を解説している。なので、それらは「別の機会であれば正解として使えるレベルで作られた文章」なのだと判断した。この本をただ解いて答え合わせをするだけなら200×2の400問だが、全ての選択肢の文章が潜在的正解なのだとしたら、取り組むべき数はその約4倍である。そういう訳で、準備期間の終盤はこの公式問題集の問題文と選択肢文全てを読解する事に費やした。それが奏功したかどうかは、残念ながら問題用紙を持って帰れないのでよく覚えてないのだけど、多分間違ってはいなかったんじゃないかと思っている。

反省と今後の指針

多義語に対して無力
6000語レベルまでの動詞でも知らない意味、使い方が山ほどある。dictateに「決定づける」なんて意味があるとはついぞ知らなかった。その語が取り得る意味の範囲を知らないと「前置詞なしで繋がっただけの熟語」の意味も想像つかないし、抽象的な概念を扱った文章では話の内容を取り間違う可能性も高くなる。未知語を減らす作業と並行して6000語辺りまでの動詞の洗い直しが必要。
行儀の悪い文章に不慣れ
挿入・省略、その他もろもろの手管を使った生の文章は、単語集の例文のような行儀のいい文章に慣れた頭では取り切れない。口語・文語を問わず実際に文章を運用する際は経済性が要求される。無くても意味が取れるギリギリのところを縫って走るのが文章なのだという前提が、英語を読む段になると途端に頭から抜ける。よろしくない。基本の勉強とは別に、参考書以外の英語コンテンツにも目を向けて行こうと思う。
日本語力が足りない
10000語を超えて来ると「前に出て来たアレと何が違うん」と思うような単語が繰り返し出て来る。その差異を拾い出せたとしてもそれらに対応する日本語のストックが「非難する」だけでは結局全部同じ棚に入れざるを得ず、きっといつか忘れてしまう。意味をぼんやり知ってるものの自分ではあまり使わない日本語を今一度検分し、新しく覚えた単語を個別に入れられるよう棚の目を細かくメンテナンスする必要がある。

大まかに言ってこんな所だろうか。更新さぼってる間にもいくつかいい本に巡り合えたのでそれを咀嚼しつつ文法の整理やボキャビル、整序問題は今まで通り続けるとして、それを後何年か続けたら腹が立たないレベルになれるのかも分からないけど。いや、本当、まだまだまだまだなのだな。それが良く分かったよ、ありがとうTOEIC。