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シャンバラを征く者

作成年月日
2006年03月14日 02:37

未完の原作をアニメ化する場合、その終わり方には幾つかの方法がある。

  1. 原作を無視して話を一から構築し、物語を終わらせる。
  2. 原作に忠実に話を進め、切りのいいエピソードで終わる。
  3. 原作に忠実に話を進めるが途中で独自の話にシフトして終わる。
  4. オリジナルエピソードで時間を稼ぎ、原作の最終回を待つ。

上手く描ければというのが前提だが俺が好きなのは3番の「原作に忠実に話を進めるが途中で独自の話にシフトして終わる」やり方である。原作未完だろうがなんだろうが始めたからにはキチッと終わって欲しいし、物書きや物描きが何十人と集まって作るのだから1〜2人で描いている原作の何倍も優れたラストを描いてやるという矜持を見せて欲しいのだ。

もっともこれはやはりリスキーで、なかなかお目にかかれない上に失敗作も数多い。前置きが長くなったがテレビ版「鋼の錬金術師」はその中でも珍しく完璧に終わらせた稀有な作品の一つである。その「鋼の錬金術師」の劇場版、「鋼の錬金術師 シャンバラを征く者」をレンタルして観た。

テレビ版の大胆なラストは恐らく賛否両論だったと思うのだが、物語のテーマに対して一切の妥協を排した着地点として個人的に大満足していた。確かにその後をいくらでも書けるラストではあったし、劇場版の話もテレビ版の製作中に持ち上がったらしいので、真のエンディングはこの劇場版と位置づける事も可能なのだが、それにしてもあんなに綺麗に終わった話の後で同じ位のテンションまで引き上げる事が出来るのかという不安もあったのである。

しかしそれは完全な杞憂であった。1年間のテレビシリーズで培ったキャラクターの掘り下げが功を奏して、出てくるセリフやカットがいちいち予想の上を行く。登場人物の行動や欲求に淀みが無く、観ていてストレスを感じない。高いレベルでキャラクターの行動が噛み合うのでサービス出来るシーンに存分に尺が採れる。それでいてラストはまたも驚きの選択が行われるのだが、この1年と2時間かけて描いてきたテーマならここしかないという、納得の着地点である。

要らないキャラクターを矢継ぎ早に殺しすぎたのはちょっと気になったがまぁ些細な事だろう。絵柄や登場人物の根本的な性格設定が自分のストライクゾーンから外れているので何度も観たくなるような作品では無いのだが、いやいい物を見せて貰いましたという感じだ。

テレビ版を観ていた人は勿論、まるっきり未見の人も楽しめるのではないだろうか。映画単体で評価しても、現実感や認識力の回復の物語としてとてもよく出来ていたと思う。